発達障害のあるお子様向け キャリアデザイン教育
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【社会的価値評価レポート】二次障害発生率に5倍の差!子どもの発達障害支援の社会的価値は?

2018年12月29日

TEENSの飯島です。年の瀬ですね。

今回お話ししたいのは『発達障害*のある子どもたちの支援の社会的価値』についてです。TEENSの1年を、ちょこっと真面目に振り返ってみます。長いですが気楽にお読みください。

【いきなり本題】療育・成育が就労準備に及ぼす効果とは ――二次障害発生率に5倍の差

今年8月、「TEENSは発達障害の子どもたちの就労準備性の発達に寄与するか」という視点でアンケート調査を行いました(※※背景が気になる方はこの後の「【背景】毎年2千億円の公費を計上 発達障害児支援の社会的価値はどれほどか?」をご参照ください)

調査対象

今回、18歳以上のTEENS卒業生と発達障害の方(Kaien利用者及び修了生)にアンケートをとりました。

  • TEENS卒業生 … 59名(平均年齢:20歳)
  • 18歳以上の発達障害の方(療育経験あり)… 31名(平均年齢:27歳)
  • 18歳以上の発達障害の方(療育経験なし)… 199名(平均年齢:32歳)
調査項目(全83項目のアンケート調査を実施)

a:就職/定着状況
b:福祉サービス(生活保護・就労移行支援等)の利用状況
c:二次障害での医療/服薬状況
d:就労準備性

調査結果

「c:二次障害での医療/服薬状況」に一番大きな違いでました。

※その他、TEENS利用者の生活保護受給割合が低いとか、大学在学時の留年や休学の率が低いとか、そういったポジティブな成果がいくつかでているのですが…年齢が大分違うため単純に比較ができず、今回はここでは取り上げません。

18歳以前、または19歳以降にうつ病・統合失調症などの二次的な障害の診断を受けたかどうかを質問。発生率に以下のような違いがみられました。

  18歳以前に診断 19歳以降に診断
TEENS卒業生  6.90% 8.93%
TEENS以外の療育経験あり  6.45% 22.58%
療育経験なし  6.53% 42.21%

TEENS卒業生と、療育経験のない方の二次障害発生の割合には、実に5倍もの差がでました。この調査については年齢との相関関係は認められなかったため、「TEENSなどの療育経験のある人たちの二次障害の発生率は低くなる」といって差し支えないでしょう。

考察

本当に「療育経験」が影響しているのか?無視できない親の影響

「TEENSは就労準備にあたってとっても大切な心の健康にポジティブに影響するね!」と結論付けてしまいたいところですが、果たして本当にそうでしょうか…?

療育経験者=二次障害の発生率が低い

まではわかりましたが、その大前提として

療育経験者
= 保護者の発達障害リテラシーが高い 
= 適切な療育を受けられる・理解ある環境で子ども時代を過ごす 
= 二次障害の発生率が低い

という関係性なのではないかと考えています。

こちらについては今後調査していく必要がありますが、本人支援だけではなく保護者支援をどのようにしていくか、というのがカギになるかもしれません。

【あらためて背景】毎年2千億円の公費を計上 発達障害児支援の社会的価値はどれほどか?

そもそもなぜこんなことを真面目な顔して言い出したのかも書いておきますと…「発達障害に通っている子の支援の必要性を示さないと今後色々まずそうだね」というところから始まっています。

【参考】毎年2千億円の公費を計上 発達障害児支援の社会的価値はどれほどか?

▼発達障害支援の社会的価値をはかる

当社Kaienは、発達障害のある小学生から大人の方に、サービスの提供をしています。その利用料はどこから支払われるか?その9割は、福祉の財源から…つまり、税金から支払われています。

税金、たくさん支払いますよね。そのお金が正しく使われているかはやっぱり一納税者として気になるところです(オリンピックは2兆円?くらいかかるそうで。楽しみですね)

そんなわけで、当社の大人向けのサービスを行っている就労支援事業部は、毎年、サービスの金銭的価値の換算をしています。当社の訓練を受けた発達障害の方々が、就職してどれくらの税金を払うようになったか!?削減された生活保護費はいくらか!? プラスになった分のお金を計算して、当社に投入された税金額を差し引きます。

社会的価値 =
会社納税額+社員納税額+Kaien経由就職者納税額(未来分も含む現在価値)+生活保護減少額(未来分も含む現在価値)・・・A
ー当社に投下された税金 ・・・ B

その金額は、昨年末時点で累計10億円を超えました。8年で10億。オリンピックを開くには大分かかりますが、それでも『税金を投入することでむしろ国庫が豊かになる事業』を行えているといえるでしょう。

【参考】社会的価値が10億円の大台へ Kaien社会的価値 ~2017年を振り返る~

 

▼子どもの発達障害 支援の社会的価値はどれほどか?

意気揚々と自慢したところで、じゃあ子ども向けの教育事業部TEENSはどうなのよ?という話になりますよね。実はTEENSは先ほどの計算式で言うと、Aの部分は0円、Bの利用料として投下された税金(コスト)のみ組み入れています。

子どもの支援は社会的価値がないのか!?というと、もちろんそんなことなく、そんなことないのですが…就労よりも進学を選ぶ子どもが多いTEENSでは、その価値を金銭的に換算しづらいのです。

でもまあ、子どもたちも元気に通ってたくさん成長しているからいいよね~としたいところなのですが、そうは問屋が卸しません。

TEENSが行っている放課後等デイサービスという福祉サービスの利用料は、総費用額(平成28年度)は1,940億円で、障害児支援全体の68.5%を占めています。しかも年々膨れ上がって財政を圧迫しています。

その中でも、お上の方々が放デイのルールや報酬のあれやこれやを決める中で、TEENSに通うような”軽度”の発達障害のあるお子さんの支援への必要性には疑念の目が向けられるようになりました(実際私もとある自治体の方から「自分で電車で通所できるような子に支援が必要ですか?」と聞かれたことがあります)

行動障害がないから困り感がないか?知的障害がないからサポートは不要か?…そんなことないですよね。彼らは福祉の枠組みにもはまりにくく、かといって理解のない、配慮のない環境では生きづらさのある子どもたちです。

大きな目線で言えば、彼らは納税者になるかどうかのライン上にいる人たちでもあります。幼少時から自立や就労に向けた力をつけていくことは、個人ではなく社会の問題といえるでしょう。

そんなわけで、TEENSに投下された税金額以上に、社会の発展に繋がるような価値があるよ、と示さねば…!と決意し今回のレポート作成に至りました。

【まとめ①】”就労準備”がゴールなのか

今回の調査をするにあたり、(結果できなかったのですが)TEENSの社会的価値を金銭換算する、というのにこだわり、「TEENSは就労準備性の発達に寄与するか」というテーマで調査をしました。

金銭換算をしないと、発達障害を知らない人たちを説得するのは難しいので。「自信がついた」「やる気が出た」「友達が増えた」というような定性的な成長は、非常に大切なものだと私たちには分かりますが、そのために2000億円の税金投入する意味あるんだっけ?という疑惑がでてしまうのは無理もないということも分かります。

そんな中で、ひとつ興味深いアンケート結果がありました。職種についての伺ったところ、TEENS卒業生が選んだ職種には偏りが少なく、選択の幅の広さが見受けられました。

TEENSでは、「お仕事体験」という様々な職種を実践的に体験していくキャリア教育プログラムを実施しています。プログラムを通し、子どもたちが様々な仕事を知る中で、自分自身の得意不得意を理解した上で職業選択ができたのではないかと考察しています。

生活基盤を整えるために、働くことはとても大切です。ただ、単純に就労することがゴールにするのではなく、自己実現に繋がるように。働くというのがあくまで人生の豊かさひとつの形(ただし大部分の人にとっては非常に重要なコト)だということを忘れないように、サービスの在り方も模索していきたいと思います。

【まとめ②】2019年、TEENSはこうなる!

これまで子どもたちへの直接支援に重点をおいていたTEENSですが、2019年は保護者へも、そして子どもたちが大半の時間を過ごす学校へも、何らかのサポートができればと考えています。

特に学校での合理的配慮をどう進めるか?は喫緊の課題だと思っています。こちらについては4月ごろ、新しいサービスをスタートさせる予定です。乞うご期待です。


2018年もありがとうございました!良いお年をお迎えください。

2019年もよろしくお願いします。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます

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