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我が子が発達障害*と診断された場合でなくても、親としては学校の勉強が出来るか出来ないかは気になると思います。また単に勉強しないからできていないのか、やはり発達障害の特性があって難しいのか、などは少なくとも小学校高学年ぐらいにならないと親としては見えてこないと思います。
これがため、”発達が気になる”程度で止めてしまって必要な支援を求めるのが遅れたり、あるいはこの子は何らかの可能性が絶対にあるはずと一発逆転を期待して”類まれな才能”にかけてしまったり、あるいは頑張れ頑張れと発破をかけすぎてやる気を潰しかねないと思います。
クリアカットなアセスメントがあるわけではありません。我が子ですら予想外の状況ではあります。とはいえ、ある程度の傾向はあるので、知識があると子どもの成長は落ち着いてみていられます。以下、分析をした結果というよりも、何人も何十人ものお子さんの状況を見ている経験則をまとめていきます。
一度に書こうと思いましたが、少なくとも2回になりそうなのでシリーズにします。今日は発達障害児における『IQ』と『勉強の出来不出来』の関係について。
【1】 IQテスト(WISC-IV ウィスクフォー(最新版)などの知能検査)は取っておいたほうが良い
まずIQテストは少なくとも1度は取ったほうが良いと思います。取りすぎても、どんどんパターンを覚えて点数が上がっていくお子さんもいるので、多ければよいというわけではありません。でも、最低一回は受けて概ねの傾向をつかんだほうが良いと思います。
最近ではかなりの医療機関・福祉施設でWISCを取ってくれています。そもそも発達障害の診断の時は、IQ=脳の特徴が凸凹していることを確認するため、WISCはほぼほぼ必要な要素ですが、心理士の方のコメント欄を含めしっかり保管しておきましょう。以下に書くように今回は数字しか検討しませんが、今後の成長で必要になるのは心理士のコメントに含まれていることが多いです。
【2】高すぎるIQはマイナスにはならないが大きなプラスにもならない。
IQが非常に高くても勉強がすごくできるようになったり、将来の成功につながるかというと、必ずしもそうではありません。やや古い研究ですが、IQ180の子どもの成長を追った長年にわたる研究の結論は「IQの驚異的な高さは違いをほとんど生まず、世の中でいう”天才”の概念と結びつくことは無い」というものです。なので、IQが非常に高いからといって期待するのは酷であると思います。
高すぎるIQは、たとえて言うと「お風呂のお湯がこぼれる」感じで、つまり実質のプラスにはならないですが、それでも勉強を理解しやすいことには変わりありませんので他のお子さんよりも有利なのだと思います。(※研究でも高IQが不利とは一言も言っていません。天才的・出来る人になるという意味では有利ではないということです。)
なお、先の研究では、IQ180のお子さんを追ってもノーベル賞受賞者とか著名な起業家とかは出なかったものの、研究対象から外れた(統計学的には)平均的なIQだけれども、そこそこ高いぐらい(IQ110~120ぐらい)の層から活躍する人たちが出てきたらしいです。
【3】残念ながらほとんどの場合、成績は(他のお子さんと比べて)下降していく
小学校低学年に比べると、高学年の時のほうが、小学校高学年に比べると中学校の時のほうが、中学校の時に比べると高校の時のほうが、成績が下がってしまいます。これは、発達障害の多くの子は、パターン化によって短期的記憶(といっても超短期ではなく、数日から数か月の記憶)で勉強ができる状態になっていることが多く、意味理解まで到達しづらいということがあると思います。
パターン化で対応できるのは小学校位まで、中学校になるとそれでは難しくなりがちになり、高校ではパターンだけで対応できるのは一部のIQの頗る高いお子さんという印象です。
意味理解が難しいのはIQの凸凹が関係していると思われます。というのも意味理解というのは単なる暗記ではなく、脳の様々な部分を使って、情報を統合させていくプロセスだからでしょう。とはいえ、発達障害の子も特定の話題などは深く意味理解をしていく場合があります。つまり意味理解が全くできないわけではなく、学校の勉強のように国語算数社会理科など様々なことを同時期に意味理解で考えていくには馬力が足りないことが多いのだと思います。
(多くの子は意味で考えると分かりやすくなる場合がありますが、その意味の理解が難しい発達障害のお子さんの場合は、時間をかけてパターンを覚えていく、脳に刷り込ませていく感じになって、要領よい勉強法ができにくいのだと思います)
実際、以前もシリーズ「10代の発達障害を考える」② 好きな科目苦手な科目 で書いた通り、社会や理科が好きである理由は、発達障害の子に合いやすい暗記物という側面が強いと思います。
また学年が進むほど、様々な行事があったり、様々な役目があったり、部活があったりと、すべきこと、したほうが良いこと、そしてもちろん勉強すべき教科も増えていきます。優先順位付けや時間管理、スケジュール管理など段取りに苦手感があり、同時並行が難しい発達障害の子にとって、勉強を始める前の戦いが多いことから、同じだけのエネルギーを勉強にかけにくくなっていき、成績が下がる可能性が増えてしまうのだと思います。
なお、下降トレンドにあるのは全員ではなく例外も色々とあると思います。代表的なのが、幼少時に極端に多動だったり、こだわりが極端に強かったりと、発達障害の特性が強く出てしまって、低学年の時にとても落ち着いて勉強ができないというケース(いずれも次回以降の記事で紹介予定)、そしてそれを挽回できるぐらい後年に安定したケースです。
【4】学習障害的な要素はWISCでは分かりづらい 対策によって成績が上がることも
WISCも数ある知能検査・心理検査のうちの一つ。脳の機能をはかるために完璧ではもちろんなく、むしろ非常に特殊なものともいえます。例えば、1対1で、数うちゃ当たる方式で、静かな空間で、テストができる知的検査というのは、通常の生活環境とは大きく異なり、普段とは違う環境でのテストだと得られない情報も多いからです。
ここからは僕が不勉強のため推測になってしまいますが、特にWISCは学習障害*についてはほとんどわからないのではという印象を持っています。例えば、WISCにおいては、数学的な概念(数や空間など)についてもワーキングメモリー指標や処理速度指標という部分で使われているだけ。つまり学習障害の要素を見ているわけではありません。数字を使ったテスト項目だけれども、記憶や脳回転の速さという少し違う要素を見ているようです。
また、IQ以外の要素が学習障害っぽいケースは絡んでいそうということがあります。例を挙げると漢字の書字が難しいと思っても、視覚になんらかの難しさもある(あるいは伴っている)のか、ADHD的な特性で面倒くさい!と好き嫌いから逃げ回っているのか、手先が不器用だからお箸よりスプーンが良いという感じで漢字ではなくひらがなを書いてしまっているのか、仮説が絞りにくいです。そしてこれはもちろんWISCの数字だけではなかなかわかりません。
繰り返しになりますが、学習障害は多様です。このため、WISCがIQの凸凹を数十分で測るような、学習障害のレベルを簡易的に測定するテストはありません(と僕の知識内では思っています)。対応策としては、愚直な方法しかありません。つまり、専門的な場所に通って、それなりの回数を重ねて、専門家による観察・アセスメントを重ねる中で、徐々にわかってくるかなぁというものです。
長くなりましたが、学習障害的な要素が強くかかわって成績が下がってしまうケースは、その謎に包まれた困難さが理解されると、対策もわかってくるわけで、成績が上昇トレンドに入る可能性もあります。ただし、発達障害は学習障害だけが出てくることは稀だと僕は思っていますので、多くの場合ADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)と重なっていると思います。このため、学習障害だけのアプローチだけでは難しいと思いますし、学習障害の対応が完璧になっても、【3】で見たような(下降)傾向とのバランスになると思われます。
【5】下位項目の「言語理解」 IQ90で大学には入れる 105前後で標準校 120前後でトップ校
そしていよいよ数字でどういう状態になるかの予測ですが、ここについては発達障害の傾向というよりも世の中の傾向とあまり変わらないことをお伝えすることとなります。
今の時代、知的に障害があっても大学に入れる時代になっています。もちろん高卒で就職、進学と言っても大学ではなく専門学校へということも考えられますが、IQ90ぐらいあると(少なくとも当社がある首都圏に住むお子さんは)大学に入っている傾向が高いと思います。
IQ70~90ぐらいでも大学にごく普通に入っています。が、勉強についていくのは難しいため、専門学校を選ばれるケースも増えます。また、大学に入れたとしてもそれまで名前を聞いたことがないような大学かもしれません。率直な感想を言うと、また親御さんからのコメントをそのまま載せると、「勉強ではなく、4年間という時間を稼ぐために」という思いが強いようです。
IQ105ぐらいになると、皆さんが知っている、例えば箱根駅伝の常連校など、偏差値が50以上の大学に入るお子さんが多いようです。IQ100と書かずに105にしたのは、(やはりIQの平均である100で偏差値50というのがわかりやすい説明ですが)それよりも5や10ぐらい高めのIQがあるうえで偏差値50ぐらいに落ち着くことが、(【3】【4】の説明からもわかっていただけた通り)多いように思うからです。
IQ120前後になると、東大早慶、あるいはMARCHクラスのトップ校に入るお子さんが多くなってきます。少なくとも大学受験の段階ではまだ【3】の影響を受けないほど、パターンによる暗記力が非常に強かったり、勉強に集中する環境を親御さんや学校を始め周囲が作り出してくれるので、国数英社理の5つに自分のエネルギー・段取りのすべてを注げばよいので、入試のバーをクリアできるということだと思います。
もちろん、今度は大学内で、より複雑な人間関係や段取りや同時並行が始まります。中退がすくなくとも当社の以前の簡易分析では通常の大学生の2倍ぐらいはあったので、バーのすれすれを飛ばすのが良いのかどうかも親の悩みどころです。
【まとめ】 緩やかに下がることをある程度覚悟しつつ、IQ・学歴だけで決まらないことは理解する
繰り返し書いた通り、発達障害のお子さんはどうしても成績は下がってしまっていく傾向にはあると思います。このため親としてはそのあたりをしっかりと受け止めてあげることがまず重要になりそうです。
また、そもそも先天的に近く持っているIQで大きな傾向も決まってしまいます。IQ80の人が東大に入るというのは、まあ、歴史を紐解けば何人かいるのかもしれませんが、ほとんどないであろうことは簡単に予測できます。この辺りの現実を受け止められない親御さんは少なからずいます。
ただし、そもそも成績が良いことが、人生が本当に良くなるかというと、そうではありません。寅さんの映画での言葉も借りると、「どんな人生でも後悔はある」わけで、勉強ができてもそれはそれなりの苦しみや後悔がありますし、出来なくてもそれはそれなりの楽しみ方があるわけです。親が本当に頑張らせて成績を偏差値で5ぐらい上げたところで人生が変わるわけではないと思います。
実際当社で様々なお子さんの成長や、大人になった発達障害の傾向のある人の人生を見ていると、正直なるようにしかなりません。学業や受験で挫折経験を与えてしまうほうが二次障害を負いやすく危険です。また、どの学歴であろうと実は就職まで結びつける道はそれほど変わらないので、少なくとも大学受験ぐらいまではあまりキリキリしないようにして頂きたいと思います。(という意図でこのブログを書きました)
もちろん、僕自身の人生を振り返っても、ゆとりばかりではだめで、本人の精神状態が安定していて、意欲がある限り、勉強でいい成績を取ったとか、受験を乗り越えたという得難い成功体験が手に入るので、のんびりさせることだけが親の役割ではないことは付け加えておきたいと思います。
ですので、学習塾ではないですが放課後支援の中で発達障害のお子さんの学習支援もしている当社としては、IQを一つの参考にしつつ、学習障害的な、また次回書く予定の特性での困り感を加味して、理想の状態に近づけるよう学習・生活面の支援をご本人と親御さんにしていく、という結構難しいことをしているということとなります。お子さん向けは本当に難しい。。。
【おそらくあるであろう次回】発達障害の特性と勉強の出来・不出来
実はIQが低くても結構勉強ができてしまっているお子さんは小学生時代を中心にいます。一方で高くても全然勉強が出来ないお子さんもいます。実は世の例にもれず家庭環境が響きやすいですが、次に響きやすいのが特性だと思います。 実際我が子もIQと勉強の出来不出来が、今日の【1】~【5】で書いた典型例とは大きく異なるレアケース、もしかしたら自分が見ている発達障害児の中で一番違うケースなので、勉強ってIQだけじゃなくて特性が大きいのだなぁと改めて感じています。 このブログを書くのに1時間以上は費やしてしまったので次回はいつになるかわかりませんが、またまとまった時に書きたいと思います。
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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます
*学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます