「凸凹がある子どもたちの、これまでとこれからのハローワーク!」と題し、アナログゲーム療育アドバイザーの松本太一さんと当社代表取締役の鈴木が対談しました。
昨年、当社監修で発売したカードゲーム「ハローワークゲーム」(以下、ハロワゲーム)のねらいや活用法に触れながら、カードゲームで得られる効果や障害者雇用の現状など、発達障害*にまつわる様々な話題が展開されました。対談の一部をご紹介します。
鈴木:発達障害の子は男の子が多めで、一人でできる鉄道やゲームに興味が向く人が多いです。仕事についても、その延長線上で考えがちです。その点でも、アナログゲームをやってもらいたいと思っている親御さんや支援者の方も多いと思うのですが、どのように招き入れたらよいでしょうか?
松本太一氏
松本:発達障害の中でも特に、自閉症のお子様には視覚的に訴えることが効果的です。塔が崩れたり、ボールを投げるなど、見た目にギミックやインパクトがあるものです。何をすればよいか視覚的に分かることでやってみたいと思わせることができます。ビジュアルで引っ張り、ゲームの面白さを体験してから、ちょっと難しめのカードゲームに引き込んでいきます。その意味でハロワゲームはビジュアル的な魅力があっていいですよね。
鈴木:本と違うところはそういう良さですよね。その中で、カードゲームをする時に子どもの当事者同士だけでやりとりするのは難しいです。アナログゲームでは、支援者や大人の役割が重要ですよね?
松本:非常に重要です。それまで楽しんでいても、支援者が抜けた瞬間崩れてしまう場合が少なくなりません。その理由は二つあって、一つは、適宜アドバイスが入ることでルールの枠組みの理解が進むことと、もう一つは子どもに比べて大人である支援者の反応は安定しているので、無理を言っても合わせてくれる安心感があることです。
大人の場合、就労訓練の一環としてアナログゲームをすると、ゲームの枠組みの中で活発にコミュニケーションをとれるようになり、成長がみられます。しかし、振り返りの面接の場面になると、緊張してガチガチで話せなくなってしまいます。ここが難しい課題です。
ゲームは構造化されているので、何が目的で何をすればいいかが決まっているからうまくできます。しかし、面接では何を聞かれるか、何を聞いていいのか分からなくないので、うまくいかないんです。言い換えれば、支援者は、ルールの枠組みを伝えることで目的や手段を分かりやすくしてくれる存在なので、その役割はとても大切です。
鈴木:今は家庭では一人っ子が多く、家の中で完結することが多い。集団を経験したことがなく、部活やアルバイト、みんなでの遊びを経験したことがないというのは、自己理解を他者目線で積み上げていくネタがないまま終わっているということになります。ハロワゲームで全部解決することはありませんが、一つのきっかけになりやすいかなと思っています。その点で、ハロワゲームにある「とくちょうカード」は他のゲームにはない面白さですね。
松本:自分を理解するという経験がない子が多いですよね。「とくちょうカード」で自分のことを初めて考えたと言う子がいます。漠然と「あなたは何が得意ですか?」と聞いても、上手く答えられない場合があります。そんな時、このカードでは、「これは得意?苦手?」と具体的に聞けるので、本人が困っていたり、意識していたりすることなどが出てきやすいです。
鈴木:自己表出は難しいが、選ぶことができる子は多いので、そこをカードで見せられるのがポイントになっていますね。
松本:自由回答ができれば本人の理解も進むし、周りも分かりやすいですが、それが難しい時、(ハロワゲームでは)2択で分かりやすく聞けます。例えば、カードにある「ひとのかおをおぼえられない」「ひとのかおをおぼえるのがとくい」など、司会する側も聞きやすいし、本人も答えやすいです。
鈴木:案外いいゲームになっていると思っています。ぜひいろいろな人に使ってほしいです。
松本:10年くらいの中で、支援として進んできたよねというところはありますか?
鈴木:悪くなっていることは全くなくて、いいことばかり起きていると思っています。例えば、障害者雇用もKaienができた13年前は知的障害、精神障害、身体障害、発達障害の中で、発達障害の人が一番難しいとハローワークの人に言われました。今、定着率は発達障害が一番良いんです。語弊がある言い方になるかもしれないが「売れる」障害になり始めているかなと思います。また、メディアや有名人の発信で発達障害の認識が広がっていることも大きいです。
支援側も変わってきました。発達障害の大人の支援はKaienだけだったのですが、今はどこにでもあります。質はいろいろとあるが、支援をする人は増え、当社で働きたいと考えている人も非常に多いです。支援機関や人など、状況は良くなっていると感じています。
当社代表取締役・鈴木
松本:発達障害のある人の就労事情の変化はどうですか?
鈴木:「合理的配慮」の考えが盛り込まれた障害者差別解消法が2016年に施行されました。24年からは民間でも義務になります。一般雇用でも障害者雇用でも合理的配慮をしなくてはいけないという、法律上、担保されている権利となっています。いいことが増えています。もう一つ、新型コロナウイルスの影響で、時代が10年くらい早まったと思っています。自宅で働くことを、バランスよく選択できるような人も増えていきました。今後、地方にもネットの力でどんどん仕事が舞い降りていくと思います。発達障害の人にとって、いい方向に向いているという印象です。
松本:地方の人がテレワークで東京の企業に就職できるようになってきています。テレワークで障害のある方を採用ができると企業も分かってきて、地域が関係なくなってくると思います。また、独り言や貧乏ゆすりなど、時に奇異に見えてしまうようなこともテレワークになることでトラブルがなくなり、通勤が苦痛な方へのメリットにもなっています。
このほか、ハロワゲームに盛り込まれた「コミュニケーション」「自己理解」「将来」のキーワードをもとに、人との関わりの中での成功体験の大切さなども話題に上がり、また、近年の発達障害の方の職域で広がった分野や新型コロナウイルスの影響についての解説もありました。
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松本太一さん アナログゲーム療育アドバイザー
東京学芸大学大学院教育学研究科障害児教育専攻卒業。教育学修士。卒業後は、福祉団体や人材紹介会社で成人発達障害者の就労支援に携わる。その後、放課後等デイサービスの大手FCチェーンで発達障害児の療育プログラムの作成に携わる。2015年6月に独立。現在はフリーランスの療育アドバイザーとして活躍中。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます