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マイペースに過ごせていた夏休みから、再スタートする学校生活にスムーズに復帰していくためには、心と頭の準備体操が必要です。本講座では、新学期の心構えの確認をした後、”スタートダッシュを成功させよう”をテーマに2学期の最初に習う内容を先取りで学習します。
5,000円(税別)
このコーナーでは海外メディアが伝えた子どもの発達障害*に関する注目記事をセレクション。解説を交えてお伝えします。今回は『英スーパーマーケット・チェーン”モリソンズ”、自閉症者のための”クワイエット・アワー”を導入』、『自閉症スペクトラム障害の中核的社会的症状に対する鼻腔内オキシトシンの効果:ランダム化臨床試験 』の2本です。
Morrisons ‘quiet hour’ for autistic shopping introduced
イギリスのスーパーマーケット・チェーン”モリソンズ”は、毎週土曜午前9時から10時を自閉症者のためのショッピング時間としました。
この時間帯には感覚過敏を抱える自閉症者もストレスなく買い物が楽しめるように、というはからいです。具体的には、照明の明るさを下げ、ラジオや音楽を流すのを止め、大音量のアナウンスや運搬車、搬送バスケットの移動を控え、レジその他の電子音の音量を絞る、という試みです。モリソンズでは2016年からマンチェスターの店舗でこの仕組みを試験導入し、7月から英国全土439店舗での実施に踏み切りました。
評価は概ね好評で、自閉症児を持つ親からは「驚きだわ。子供の反応が全く違う。自閉症児にとってもその親にとってもストレスが格段に減ったわ」「今までトラブルを起こす子のダメな親と思われるのが嫌で、スーパーマーケット・モールに子供を連れて行くのを避けて来たけれど、自分たちのことを理解してくれている人がいる、と思うだけでリラックスできるわ」といった歓迎の声が上がっています。さらに「訓練を受けた店員は”オーティズム・フレンドリー”のバッジをつけて、不安を取り除いて欲しい」「週一でたったの1時間では少な過ぎる」「他のチェーンでも行うべき」「クワイエット・アワーだけでなく、同様にストレスの多い店頭行列の問題も解決して欲しい」といった意見や要望も出ています。
テスコやセインツベリーといったイギリスの他の大手スーパーでも、同様の試みが試験導入や一部店舗での実施段階に入っています。日本でも業績不振にあえぐ流通業界再建のきっかけとして、こうした制度が導入されるといいですね。
米NCBI(国立バイオテクノロジー情報センター)のPubMed(論文検索データベース)に、鼻腔注入によるオキシトシンの高機能性ASDに対する効果についての日本の調査が掲載されています。調査の要約を以下ご紹介します。
自閉症スペクトラム障害(ASD)の社会的障害に対するオキシトシンの影響について、小規模な調査が言及することはあっても、大規模な調査は行われてきませんでした。日本では2015年1月から2016年3月までに、ASD患者106人(18〜48才)を対象に、無作為化された平行群、多施設、プラセボ対照の二重盲検試験により調査が行われました。この調査で、被験者の53人は6週間鼻腔内オキシトシン48IU /日を、残りの53人はプラセボを摂取しました。
103人の結果分析によれば、鼻腔内オキシトシン群とプラセボ群の、自閉症スペクトラム観察検査(ADOS)との関連性における有意差や、有害事象の有病率の有意差は観察されませんでした。一方でオキシトシンはASDの反復行動をプラセボ群より減らすことが認められ、さらに注視固定の持続時間はオキシトシンによって長くなっていることがわかりました。
「この大規模な調査から判明した知見にもとづくと、鼻腔内オキシトシンにはASDの反復行動を治療する可能性は示唆されているものの、大人の高機能ASDの中核となる社会的症状を治療するために、現在の投与量および期間での連続的な鼻腔内オキシトシン治療のみを推奨することはできない」と、調査の要約は結論づけています。
ニュースレターの登録時や説明会の申込みフォームなどでお寄せいただいたご質問、ご意見にお答えします。
Q1. 子供は本年ADHDと診断されました。1月から教育センターのプレイセラピーを受け、4月から通級の特別支援教室も利用しています。学校では教室で過ごすことができません。クラスにいると、暴力暴言で取り出されてしまいます。特定の子へのいじめをしてしまいます(いじめている子は、発達の遅れのある子で、誰が見ても弱い者いじめです)学校は個別対応で、頑張ってくれてはいますが、クラスに戻る、ロードマップが見えません。息子もいじめられている子も、先生も、私も、みんながしんどいです。保育園の頃は、やんちゃで手のかかる子でしたが、正義感の強い優しい子でした。今も根本は変わらないと思っているので、どうしたら、もとの、あの子に戻ってくれるのか、頭を痛めています。お助けください。
A. 行動課題に向き合う時は、必ず必ず”原因”を考えます。そして原因を探っていくためにはまず”事実”を正確に把握していく必要があります。
まず、ご本人は具体的にはどういった行動を行っているのでしょうか?背中を押す、「バカ」と言う、などなど…。ご質問の中では「暴力暴言」「いじめ」と表現されていますが、こうなると「本人の行動には悪意がある」という前提で話すがスタートしてしまいます。まず、今現在のご本人の姿に、何のフィルターも通さずに向きあ必要があるでしょう。
行動の理由は「(モノ・活動の)要求」「(注目の)要求」「拒否」「自己刺激」の4つに分類されると言われています。お子様が”特定の子へのいじめ”ている理由は何でしょうか?誰かに注目してほしいから?クラスからエスケープしたいから?…Whyを繰り返していき、ご本人が抱える困り感の本質に立ち戻ったうえで対応を考えていきたいところです。ただし、学校という刺激の多い空間の中でそれを実行していくのはそれほど簡単なことではありません。専門家にご本人の活動をみてもらう機会をつくった上で進められると理想的ですね。
”本人もしんどい”ということに気がついてくれている保護者様がいることはお子様にとって最大の救いです。時間はかかるかもしれませんが、衝動性は徐々に落ち着いていきますので、地道に対応していきましょう。
【参考】子どもの発達障害 ADHD
Q2. 小学6年生の息子が小5の頃にADHDと診断を受けました。ゲームの時間やそのゲームの攻略方が分かるYouTubeの動画を自分から止められません。普段自宅でゲームをする時は、ゲーム+動画を1日1時間以内にすることと話し合って約束して決めています。(中略)生活の最優先がゲームとなり、ある日「ゲームと動画を合わせて1時間は短過ぎる。人生の楽しみがない。死にたくなる。」と泣きながら訴え、マンションのベランダから落ちるようなフリをしました。その姿を見て、私の中でも何かが壊れてしまったような気がしました。涙が止まりませんでした。(中略)主人も息子と話し合い、生活リズムの大切さ、優先順位を自分で考えなさい、よく考えた上で好きにしなさいと伝えたところ、また好きなだけ動画を見るようになってしまいました。私が声をかけると、「お父さんは好きにしていいと言った」と自分にとって都合の良い台詞だけを抜き取って私に不満をぶつけてきます。ADHDの子どもはゲームを1時間で辞められる自律心を持つことは難しいのでしょうか。夏休みの間は早く寝かせることを徹底し、朝も決めた時間に起きるよう促し、ほぼダラダラしつつも何とか起きてきます。また宿題なども午前中のうちに取り組み、それが終わってからゲームをしています。やる事をやり遂げたことを褒めて、1時間以内なら私も何も言わずに見守っています。ただ、動画などは強制終了の設定をしていないので、声をかけると上記のような反抗的な態度になります。友だちと遊んだり、興味のあることに関わる時間を持って欲しいのですが、予定を自分から立てることが苦手なのか、友だちを誘ったりして遊びに行きません。私がそのような設定をしてやると友だちと楽しく遊んだりするのですが、そんな日もゲームに対する質問はあります。
A. ゲーム障害がWHOによって疾病に認められたというのが今年の6月に話題になったばかりですね。まず一般的な話をしますと、確かにADHDの子はゲームに依存しやすいと言われています。というのも、活動の成果である「報酬」をすぐに受け取りたいと考える傾向があるため、ゲームのような”ちょうどよい難しさ”の活動ののちにすぐに報酬(ポイント、レベルアップなど)がでる仕組みにははまりやすいのです。
では、今回ご相談いただいた方のお子様がゲーム障害に該当するかは、ご相談いただいた内容を拝見する限りはそのレベルではないようにお見受けしています。促されれば早く寝られる、朝も起きられる、午前中のうちから宿題にも取り組める、友達との遊びを楽しむことができる…依存と呼ぶような段階ではまだないと思われます。お母様自身が不安が募る中、やるべきことをやったら褒める、ルールの範囲内であれば見守るという冷静な対応ができているのは本当に素晴らしいことですし、お子さんもよく頑張っているなと感心します。決して簡単なことではありません。
対応としては、お互いストレスが少なく運用できるルールの設定ができるといいでしょう。最低限のルール(食事は家族ととる、宿題は終わらせる など)を明確にし、それが守れていればゲームは1時間。+αのお手伝いができたときには、時間を延長できる、などはいかがでしょうか。言われたとおりに行動して頑張っていても結局ゲームできる時間が1時間ということに変わりがないのであれば、そのうちやるべきことをやることもできなくなくなる恐れがあります。逆に、頑張った分だけ報酬が得られる、という環境は活動へのモチベーションを高めていくでしょう。
ゲームや動画という活動自体を否定するのではなく、それがお子様の成長機会に繋がるような仕掛けが必要です。確かにゲーム依存は怖く、特に発達障害のある子の場合ははまりすぎてしまう前に何らかの対応が必要です。ただし、一方的に制限したり過剰に締めつけてしまうとかえって反動を起こすでしょう。ゲームを通じてお友達とコミュニケーションをとったり、動画を通して表現方法を学んだりと、必ずしも悪い面ばかりでもないはずです。特に今の子どもたちはデジタルネイティブ世代です。避けるのではなく、上手に付き合っていく方法を模索できるとよいでしょう。
なお、余談ですがTEENSでは近々eスポーツをとりいれたプログラムを実施検討中です。発達障害のお子さんのゲームへのはまりやすさを、強みへと昇華できないかと考えています。詳細が決まりましたら、こちらのニュースレターでもご紹介したいと思います。
この1か月のTEENSのイベントやニュースをまとめてご報告します。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます