□■□■□■□■
400人を超える発達凸凹のある子どもに向けたTEENSのキャリア教育の内容や方針が英文記事 The Japan Times で詳しく紹介されました。
【参考】TEENS最新情報
このコーナーでは海外メディアが伝えた子どもの発達障害*に関する注目記事をセレクション。解説を交えてお伝えします。今回は『①米・ウエストチェスターのNPOが自閉症のある女性に就労スキルを教える』、『②PureTech HealthによるADHDのビデオゲームでの治療の準備が進み承認に近づいている』の2本です。
Westchester Non-Profit Teaches Women With Autism Skills To Get Hired
子供よりは少し年齢が上の話題なのですが、アメリカ・ニューヨーク州ウエストチェスター郡で自閉症のある女性に就労スキルを教えているNPOを取材した記事が興味深かったのでご紹介します。
「Yes We Can」を設立したマージョリー・マドフィスにはもうすぐ21歳になる自閉症のある娘がいます。彼女の将来の夢はニューヨークにあるアメリカン・ガールというドールのオフィシャルショップでドールの髪型を整える人になることです。マージョリーは娘が11歳か12歳の頃からどうしたら彼女が夢をかなえるためのスキルを身につけることができるか考え続けてきました。
マージョリーは自身が企業で30年間働いた経験を基に、自閉症のある女性に就労スキルを教えるトレーニングモデルを作り出しました。ホワイトプレインズに「Girl AGain」という中古ドールを販売するショップを開き、ソーシャルワークの修士号や生理学の博士号を持つ専門家がボランティアで指導しています。定価で1体115ドルするアメリカン・ガールのドールやアクセサリーをドールを使わなくなった方々から寄付してもらい、ディスカウントして販売しています。インターンとして働いている自閉症のある女性たちが仕入れた商品を仕分けし、商品ラベルを作成して貼り付け、店頭にディスプレイし、商品情報を入力しています。
この寄付を受けた品物を店舗で販売する中で就労スキルを身に付ける支援モデルというのは、当社が就労移行支援やガクプロで行っている、中古玩具や子供服・書籍などをヤフオクやAmazonで販売するオンライン店舗プログラムと大変近いです。Yes We Canのウェブサイトにドール販売で身につく業務スキルとして「同僚と協力して仕事をする」「助けを求める(相談する)」「適切にコミュニケーションする」「フィードバックを受け止める」など当社の訓練でも重視しているポイントがずらりと並んでいます。どんな国や文化でも自閉症スペクトラムの人にとって必要な「はたらく力」は共通しているのですね。
またYes We Canが特徴的なのは、支援の対象を自閉症のある女性に絞っていることです。自閉症と診断される人の男女比は4:1で男性の方が多数派なため、自閉症のある女性特有の困り感などは見過ごされがちではありますが、このような女性向け就労支援を行うことで、支援ノウハウの蓄積や新たな就労先の開拓などができるのではないかと想像しました。
映像や記事に出てきたインターン生のマキ・テヅカさんの働くことが楽しいという気持ちがあふれ出るような笑顔が大変印象的でした。自閉症のある女性をエンパワメントするYes We Canでは、今後は自閉症スペクトラムの人を雇用する方法をビジネスオーナーに教えたりサポートすることも必要だと考えているとのことです。国を越えてKaienと同じミッションに取り組んでいる彼女たちのことを引き続き注目していきたいと思います。
ADHD video-game treatment moves closer to approval as PureTech steps up pipeline
次に取り上げるのは、米・バイオ医薬品メーカーのPureTech Healthが開発しているADHDの人を対象にしたビデオゲームによる治療が、臨床試験での鍵となる段階を通過すれば2年以内に市場に登場するかもしれないというニュースです。
PureTech Healthの子会社であるAkiliが開発中のADHDの症状を改善するためのビデオゲームを基にした治療法「Evo」は、現在アメリカ食品医薬品局(FDA)に承認申請を行う直前の最終ステージである比較試験を行っているとのことです。もし認められれば、「Evo」は同様の治療法の中で初めて承認を受けることになります。このビデオゲームは脳の情報処理を行う部分を活発に働かせるアルゴリズムを使った高度に洗練されたツールで、子供がこのゲームで遊ぶことで神経学的な刺激を受け、また刺激に対して相互に作用し合う中で認知機能を強化することができるそうです。
PureTech Healthの共同創業者でありCEOのダフネ・ゾハールは「ADHDと診断された人のおよそ30%が服薬による治療を望んでおらず、20%ほどの人が薬の効果が上手く出ていません」と述べています。またAkiliの共同創業者でありCEOのエディー・マルトゥッチは「薬物治療でない治療に対する大きな一貫した動きや、それを求める声があります。今日多くの人々が薬を飲みたくないと思っていますし、親も子供にADHDの薬を飲ませたいと思いません。薬の副作用が強く出る人もいますが、他の治療法はあまりありません。投薬が患者に対して利益がないとは言いません、効果はありますが、他のアプローチはないか主治医に相談している親もおり、市場にはぽっかりと大きな穴が開いていると考えています」と述べています。
PureTech HealthはShireやAmgen、 Merck、Pfizerといった巨大製薬会社と協力し、開発中の治療法の商品化を目指しています。開発中の神経学に基づく治療法はADHDの他にもアルツハイマーやパーキンソン病、うつ病、自閉症と多岐に渡っています。
ビデオゲームで脳機能障害の治療などと聞くと荒唐無稽のアイデアのように聞こえますが、すでに実用化の一歩手前まで来ているということに大変驚きました。掲載されていたEvoのスクリーンショットを見ると一般的なゲームのプレイ画面と同じような形式で、子供たちは違和感なくこの「治療」に集中して取り組めそうです。アメリカで承認され効果が確認されればいずれは日本でもEvoを利用できるようになるかもしれません。投薬以外で有効かつ安価なADHDや自閉症の治療が受けられるようになる日が来るかもしれないと期待が高まるニュースでした。
ニュースレターの登録時や説明会の申込みフォームなどでお寄せいただいたご質問、ご意見にお答えします。
Q1-1. 中二男子で、アスペルガー、WISK IQ128で、ギフテッドと言われました。幼児期から集団に入れず、非常に繊細で、不登校気味でした。昨年は、通級の部屋にだけ、少し通えていましたが、現在は、「もう学校も勉強も嫌だ。」と、登校を頑なに拒否しています。好きな事しか取り組もうとせず、指導者の指示になかなかに従えません。気分の上がり下がりも激しく、うつ気味で、「自分は何をやってもだめだ。」と自己否定も強いです。今は、1日中家で、パソコンをやっているので、どこか理解のある場所で、親以外の人と関われるところはないかと探しています。本人が納得して行ける場所はなかなかありませんが、体験をして気に入れば、通わせたいと思います。このような子に対応していただけるでしょうか。
Q1-2.高IQ型に理解、対応出来るスタッフ様はいらっしゃいますか?
A. 結論から先にお伝えすると、当社では高IQの方向けの特別な対応をしているわけではありません。IQの数値よりも、どんな力を伸ばしたいのか、何が課題となっているかで必要な支援を考えいただくとよいと思います。
もし「数学オリンピックに参加したい!」と考えている子であれば、専門の塾にお通いいただいた方がよいでしょう。Q1-1の相談者のお子様のように、対人関係でうまくいかず自尊心が低下しているお子様にはまずは疑似社会の中で社会スキルを磨いていかれるのが理想的ですし、TEENSではそういったお子様のためのプログラムをご用意しています。
なお、IQとは「同年齢の集団においてどの程度の発達レベルなのか」を測り数値化した指標です。もちろんそれだけですべてが測れるわけではありません。高すぎても低すぎても同年齢の集団の中で過ごしにくさを感じやすくなるといわれています。特に発達に凸凹がある場合は周囲から誤解を受けやすいため、学校やご家庭、習い事などの主な所属集団の中にはご本人の特性を理解してくれる人がいることが望ましいといえます。
【参考】発達障害児と勉強① 『IQから考える勉強の出来・不出来』
Q2. 現在、公立小学校で国数は支援クラスで、以外は普通級で学んでいます。家庭教師や塾に通ってなんとか学力が向上できればと考えていますが、なかなか良い成果が得られていません。説明会に参加し何か糸口を見つけられればと思います。
A. ご本人の学習へのモチベーションを高めたり、ご本人にあった学習方略を身につけることで成績があがることもありますが、今現在既に家庭教師や塾を利用して水準の高い教育環境をご用意されていることから考えると、大きく向上することは難しいかもしれません。
学力向上を考えた場合、上を望めばキリがありません。そのため、お子様のしたいことやできることから将来を予測して逆算した目標設定をすることをお勧めします。将来像によっては無理に学年相応の学力レベルを求める必要がないかもしれませんし、勉強をしている時間にもっと別のことをした方がご本人のためになるかもしれません。
高い学力をもっていても、学生時代に自尊心を損ねてしまい継続して就労することが難しい方もたくさんいらっしゃいます。勉強を通じて自信をつけたり達成感をえたりしながら、強い心を育んでいけることが理想です。勉強をすることで”できない”を積み重ねてしまわないようご注意頂ければと思います。
Q3. 小学校卒業間際に人間関係で学校に通えなくなり、ウィスク4を受けました。結果、発達に凸凹があり、頭で考える程には結果が伴わないために自信を築きにくいそうです。娘に合わせた生活習慣やソーシャルスキル、学習法を知りたいと思っています。
A. 頭では分かっていても、言葉にできない・行動に移せないという、かなり辛い状態かとお見受けします。それを保護者の方が理解してくれているというのは、ご本人にとっての大きな救いですね。
こういったタイプのお子様には、同年代のやりとりのスピードについてくいくのは難しい場面が多いでしょう。特に女の子のコミュニケーションは小学生のうちから高度になるので、合わせて生活するのは大変だったと思います。ご本人のそういった傾向を理解してご本人のテンポ感を尊重してくれる大人との関わりをもつとともに、同じテンポ感をもつ同年代との交流の場が持てるとよいでしょう。
Q4. 自尊感情が低く、人への不信感が強く、少しの他人の言動を攻撃と捉え切れやすいです。突発的に切れるので困っています。
A. 対応はいくつか考えられますが、今回は切れてしまった時の対応についてお答えします。まず、怒り出してしまった段階でいくら諭しても相手には届かずにむしろ悪化させてしまうので、まずは落ち着かせることを最優先に考えてください。しばらく離れた方がいいかもしれませんし、言葉をオウム返しして話を聞いている、というのを示すのがいいかもしれません。そのあたりはどういった方法が一番合うのか探っていく必要があります。
振り返りや反省は落ちついてから行いましょう。この時、怒りがぶり返さないようできれば怒った時に関わっていた人とは別の第三者が情報を整理してあげられるとよいです。怒った理由、その時のご本人の認識、周囲の認識、感情の度合いなどを振り返りましょう。
ちなみに、事実とご本人の認識とを区別して整理していくのはそれほど簡単ではありません。ご家庭で行うには荷が重い場合は、専門性のある人にお願いをしてどういったやりとりをしたのか参考にするとよいでしょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます