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当社が執筆した「発達障害の子のためのハローワーク」。増刷が決定しました。オンライン書店では品切れのところが多く、購入までに待たされた、という方が多いのですが、増刷によってある程度解消するのではないかと思われます。
増刷に合わせて、紙幅の関係で最終的に採用されなかった”先輩インタビュー”についてブログ記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください。
このコーナーでは海外メディアが伝えた子どもの発達障害*に関する注目記事をセレクション。解説を交えてお伝えします。今回は『①キールズ、アカデミー賞受賞俳優マシュー・マコノヒーと2017年グローバルチャリティー活動としてASDの子どもたちを支援』、『②ADHDに関するオンラインのペアレント・トレーニングが効果を発揮』の2本です。
Kiehl’s x Matthew McConaughey Raise Funds For World Autism Organization
米国のスキンケア商品メーカー(キールズ)が、有名俳優と組んでチャリティ活動をするというお話。アメリカだけでなく、日本でも記事になっている他、スペイン語や中国語の記事もありました。限定パッケージの商品とともに、動画も作られており、動画を拡散すると最大200千ドル(約2500万円)のチャリティーをメーカー側が行うというものです。チャリティーで集めたお金は世界最大の啓発団体であるAutism Speaksに渡るということです。
メッセージそのものは自閉スペクトラム症の基礎症状と対応を伝えるものですし、寄付額も驚くほどではないのですが、日本語の記事がPRタイムズという媒体から出ていることで分かる通り、発達障害をPRのキーワードにしていることがわかります。
自閉スペクトラム症などの発達障害が、特に子どもの段階は多くの人の耳目を集めやすく、またその熱量が高い、かつ全世界的ということがあるでしょう。自分の子どもが、あるいは親戚ののお子さんが、職場の同僚のお子さんが、あるいはもしかしたら自分もそうなのかと思うことなどを考えると発達障害から縁遠い人のほうを探すのが大変という現状もあるでしょう。
このタイアップの企画はまだ日本の発達障害の界隈では聞かないと思いますが、既にセサミ・ストリートも自閉症のキャラクターがいますし、日本のメディアや広告の中にも今後自然に混ざってくるのだろうなということが予想されます。
Online parent training helps young kids with ADHD
米国ペンシルベニア州にあるリーハイ大学で、1億円以上の費用をかけて行われた調査研究の記事です。これまで対面で行われていたADHDの子どものいる親へのペアレント・トレーニング。これをオンラインにした時にどの程度の効果の増減があるのかが調査されました。
数十人単位の調査ですが、両者に大きな差が見られなかったとのこと。つまり対面で伝える必要は必ずしもなく、オンラインの講座でもADHDの子どもへのコミュニケーション・介入方法が上手になり、子どもの行動改善に繋がったというものです。
どのような学習についても今ではオンラインの講座が開かれるようになり、オンラインだから劣っているという声はそろそろ聞こえなくなるほどスムーズにやり取りが出来てきているのだと思います。今回の講座は非常に基礎的な知識を伝えるものでしたので、オンラインでの手軽さが更に目立ったのかもしれません。
当社もオンラインでの可能性は注目しています。年齢の高いご家族はネットに抵抗感があったり、そもそも配信する側にネットならではのコミュニケーションスキルが求められることもあったりしますが、注目するだけではなく行動しなくてはいけないなと感じたニュースでした。
ニュースレターの登録時や説明会の申込みフォームなどでお寄せいただいたご質問、ご意見にお答えします。
Q1. 高学年になり、好きなこと、嫌いなことの区別がより明確になり、やる、やらない、という意思もはっきりしてきました。そのなかで、やりたくないことを、チャレンジする気持ちをつけてほしいと思っていますが、どのようにしていったらよろしいものでしょうか
A. やりたくないことをやりたくないこととして向き合うのは、大人でも難しいですし、もはや修行の域になります。なので同じ行動でもいかに「やってもいいかな」と思わせられるかがポイントです。
まず最初に、やりたくない理由を探っていきましょう。そのうえで嫌な部分をとりのぞいてあげたり、あるいはとりくむことのメリットを感じられるように設定し、「やりたくない」ことを「やってみてもいいかなと」思えるようにしてあげてください。そうした経験を重ねていくことで、「したいこと」だけでなく「すべきこと」の理解が進んでいきます。
嫌いなこと、苦手なことにチャレンジできるペースや速度は人それぞれ異なります。こと思春期を過ぎてからは親御さんが常に伴走をすることは大変なので、信頼できる第三者を交えて進めていくことをおすすめします。
なお、周囲の大人の方には「本当にそれをする必要はあるのかな?」と自分自身に問いかけることを忘れないようご注意ください。みんなしているから、同年代の子はできるから、というような視点だけではなく、ご本人にとって本当に(現在、あるいは将来)必要で、したくて、できそうなことなのかを冷静に考えてあげましょう。
Q2-1. wiscでは処理速度が一番低いため、黒板を書き写すことをはじめ、書く作業がとても苦手です。中学進学の就学相談では「訓練でなんとかなる問題」と言われました。一方、心理士の先生との相談では、「本人のやる気を引き出した状態でないと訓練は苦痛になる可能性もある」とも言われました。学校生活でも、将来働く場合でも、文字を書く作業は必要であることは理解しています。しかし、発達障害ゆえの苦手さにたいして、本人の努力と機器を使うような工夫のバランスがわかりません。機器などを使うような合理的配慮を、どの段階でどの程度求めて良いのか知りたいと思っています。努力や工夫、配慮を社会に出る前までに少しでも本人に合ったやり方が見つかればと思っています。
A. 苦手さの度合いにもよりますが、もう中学生目前という年齢を加味すると、訓練で何とかなる問題ではない可能性が高いです。あまりに辛い様子であれば、ICT機器を活用することをおすすめします。
ではどういった使い分けをしていくかということですが、ポイントとしては、書くことの困難さが学習の妨げになっているかどうか、というところです。
例えば、社会のレポートを作成したいときはどうでしょうか。頭の中に答えはあっても、書字の困難さからアウトプットができないと「全くわかっていない」と判断されてしまいます。ICT機器を使ってレポートを作成することができれば、わかっていることが表現できますし、添削を受けるなど次のステップに進むことができます。こういった場合はぜひ手で書くことにこだわらない方法をおすすめします。
一方で、漢字の練習など、書くこと自体を課題として取り組む学習には、書字で対応していかれるとよいでしょう。漢字の学習は読みの力や語彙力の向上にも有益です。ただこれも代替方法はありますので、ご本人の状況や将来像を考えて取り組んでいってください。
余談ですが、黒板の書き写しというのは非常に難易度が高いです。距離が離れている場所にある情報を、一旦頭にいれてから手元に書き写すというのはワーキングメモリも求められるため、動作性に苦手さを抱える発達障害のお子さんには非常に苦しい作業となります。板書というのはそれ自体が目的なわけではなく、学習手段のひとつにすぎません。板書の写真撮影やプリントの使用など、他の手立てを考えてあげられるとよいでしょう
Q2-2. 先ほど合理的配慮をしてくださりそうな私立中学の説明会に参加し、見事に玉砕してきました。。。校長先生の理念や校風など入試をパスできたら本当に子どもが伸びる学校とおもったのですが、書字に苦手がある為、ICT利用でようやく普通と言われる子と同じ土俵に上がれ、学習環境が整うのですが、合理的配慮はしていただけますか?の問にNOの回答。かなり凹み、「発達障がいに理解のある中学」で調べたらこちらにたどり着きました。個別相談でハッキリ断ってくださるのは後々の事を考えれば大変ありがたいのですが、拒絶される経験は少ないのに越した事はなく…公立に行った場合の合理的配慮のお願い方法など情報が知りたいです。
A. 障害者差別解消法が施行されてすでに1年以上が経ちますが、こうしたお悩みは尽きないですね。Q2-1では理想像を語りましたが、実際にICT機器の使用が認められるかは学校によって大きく異なります。
公立学校での合理的配慮の求め方についてですが、理解のある先生でないと直接交渉するのはなかなか難しいものです。先生としても導入実績がないと判断しづらいので、特別支援コーディネーターやスクールカウンセラーといった発達障害への理解がある人を窓口に相談ができるとよいでしょう。
もし学校内の方との交渉がうまく進まないようであれば、外部機関を頼るという手段も考えられます。具体的には教育委員会や、自治体の相談窓口などがあげられます。なんにせよ親御さんだけで抱え込みすぎないように周囲に協力しながら進めてください。
なお、合理的配慮を求めるには、当事者側からどういった配慮が必要なのか主張する必要があります。ご本人とって何が必要なのか、医師や心理士、支援者といった専門家に相談しながら固めていきましょう。以下に合理的配慮の実例集がまとまった国立特別支援教育総合研究所のサイトをご紹介します。ぜひ参考にしてください。
【参考】インクルDB
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます